お侍様 小劇場

   “イ タ イ” (お侍 番外編 85)  *苦情は一切受け付けません。
 

ええ、はい。
勘兵衛様へ…貴方様へと仕えることへ、
わたしの生涯をすべて懸けると心に刻んだその折から、
どんな苦しみや痛さにも耐えるつもりでおりました。
勘兵衛様をお護りするためならば、
この身も、命さえも賭してもいいと、
空言ではなくの心から、
そんな風にずっとずっと思っておりました。
勿論のこと、判りやすく楯になることのみに収まらず、
日頃の様々な難儀へも、
及ばずながら助けになりたいと思っておりますし、
何かへお辛いようならば、
滸がましいことながら、この身でお慰めしたいとも思っております。

ですが、あのあの……。//////
そんな大きなものが わたしの〜〜へ入るとは思えなくって。
こちらは柔らかいところですもの、随分と痛いんじゃないかって、
傷を負ったり、そこから血が出て止まらなかったりしたらどうしましょう。
恥ずかしいことですが、お医者のお世話になるのでしょうか。
それより何より、あのあの…怖いんです、はい。
だって初めてのことですし。///////

そんな…微笑ったりしないでくださいよう。//////
嘘なんかついておりませぬ。
勘兵衛様は、シチが、
そういうものへ馴染み深い方だと思っておいでだったのですか?

…な、泣いてなんかいませんものっ。
平気です、謝らないで下さい。
ですが、それってどうしても必要なのですか?
勘兵衛様のお傍で大人しくしております、絶対に離れません。
他のお方へ眸がいくなんてありえませんっ。
え? 他の方の眸が集まるから、ですか?
ですが、あの、このようなことをすると、
他のお人の眸が集まらなくなるものでしょうか。
痛さが気になって萎れておれば、覇気も薄まろうって…そんなっ。///////

 (あ、や…、いやっ
 (ひゃあっ、つ、冷たいっ。
 (あ、そんな、力任せに掴まないで。
 (指で押し開けるなんて、乱暴な…
 (あ……や、怖いっ、やっぱり怖いですっ
 (あ、ああっ、勘兵衛様っ

い、痛っ、痛い…いた、いたい……
痛いです、痛い、勘兵衛様、いたい、いや…っ

「これ、大人しくせぬか。」

ですが、や…やめ、あ……いた、
痛い痛い、痛いですったら、あっ、痛いっ

「シチ、大人しくせねば却って痛むぞ。」

で、ですが、あの、あっ、
や、いやっ、痛いですっ、痛〜〜〜〜〜〜っっ






 「……シマダ、シチは手首が痛いと。」
 「お? ああ、済まぬ。」
 「〜〜〜〜〜〜〜。」
 「ほんまや、せやから眸ぇも開けられへんかったんちゃうん。」


まま、こればっかりはな。
全くの全然、慣れがないお人には、
ただただ おっかないもんでもしょうないて、と。
自分の連れて来た如月少年が、その細っこい指先へ危なげなく載せている、
小さな小さな樹脂のレンズを苦笑交じりに眺めやるのは、
関西は神戸、須磨の支家を統括している丹羽良親という青年であり。

 「せやけどな、おシチ。
  これは そんじょそこらのコンタクトレンズとちゃうんやで?」

飛騨の職人さんが1個1個丹精込めて…と、ちゃうちゃう。
こっちの畑じゃあ、
世界のセレブが競うように欲しがるゆう逸品で有名な、
○○社の特別調整室で拵えはった、
おシチにしか使われへんカーブ仕様の特製レンズなんやから。

 「絶対に痛ないのは保証したる。」

大体、今痛かったんは、勘兵衛様が掴んでた手首の方なんやしと、
しょっぱそうなお顔で苦笑をする良親が見やった先では。
その七郎次の隣りへと腰掛けた御主様が、
最初は肩に手を添えていただけだったはずだのに、
ついつい逃げ腰になっていった連れ合いの焦りに煽られたものか。
これ逃げるなと押さえるつもりでの、
その広い懐ろへと掻い込むだけでは足りぬとし。
掴み取っていた手首へと、
一回り以上は大きな手でもって、
予想外の力を込めてしまったが故の大騒ぎであったらしく。
これも同坐していて見かねた久蔵が声を掛けねば、
誰一人、何がどうしての大絶叫か、気がつかなんだというから穿っている。

 とはいえ

これだけの衆目の中で、
大人げなくも取り乱しての大騒ぎをしてしまうなんて、
何事へも楚々と構えてこなしてしまえる、
勘兵衛からの信頼も最も厚いこの青年には、まずはあり得ぬことでもあって。

 「…七郎次?」

そんなに嫌か?と、
すぐの傍らから覗き込んで来るのは、
御主でありながら、だのに無理強いは決してなさらぬ、
それは優しい勘兵衛様の深色の眼差しで。

 「………勘兵衛様。////////」

ああ、皆さんがおいでなのに、そんなお顔をなさらないで。
日頃それは雄々しくも精悍な、鷹揚なお方でおいでなのに。
シチが我儘なだけなのへ、そうまでのお気遣いしていただくなんて。
添わせた身の暖かさにくるまれておりながら、
どうしてこのお顔へ逆らえましょうや、と。
見交わす眸と眸で会話ができるほど、
何とか落ち着いたらしい七郎次なのを見てとってから、

 「ほな、構へんね?」
 「……はい。」

まだ多少は肩が強ばっているものの、
命を奪られることじゃなし、
良親も、痛くはないからと太鼓判を押してくれたし。
それにそれに、試しにと如月くん自身や、
果ては久蔵に勘兵衛までもが
“こうするのだ”とそれぞれ試して見せてくれたもの。
少しほど上を向かされ、
視線だけ少し下向いて、そうそのまま…と、
誘導された通りにした途端、
ひやりとした水と指先とが目元へ飛び込んで来て…。

 「はい。そおっと目ぇつむって。ぱちぱちってしてみて?」
 「はい…。」
 「なんや違和感とか おませんか?
  睫毛入ってもたみたいな、チリチリとかゴロゴロとか。」
 「…ないです。」

ほれ見てみと手渡された手鏡に映るのは、
いつもとさして変わらないお顔と…だがだが、

 「あ、眸が黒い。」
 「あのなぁ…。」

正確にはハシバミ色の少し濃い色という辺りか。
そんな色になるようにというカラーコンタクトレンズを、
この七郎次へと装着させるためだけに、
正味1時間近くも、宥め賺すやら実力行使に走るやらした、皆様だったようであり。
色白なお顔には微妙に不思議な印象を与える、
深みの増した自分の目元を、
しばし まじまじと眺めやっていた七郎次だったものの、

 「…ですが、こんなことをして効果がありますか?」

確かにまあ、青い眸よりは珍しさも減るかもですがと。
まだ少々目許に潤みを残したまんま、
キョトンと小首を傾げる宗主の恋女房からの問いかけへ、

 「まあ、目立たへんようにというよりも、
  何処の誰や判らへんようにするためやし。」

自分の腰掛けているソファーの傍ら、
これも如月くんが持参した、かっちりしたトランクタイプの道具箱を、
求めに応じて ほれと差し出しつつ、良親が応じて。

 「四ッ谷のご隠居、いやさ奥方は、札付きの仲人マニアやよってな。」
 「……札付きは言い過ぎですえ、良親様。」

側面にやたらと、スライドさせるのだろ支柱がついてるトランクなのは、
4段くらいに分かれていたそれぞれを、左右へ展開させての大きく開くため。
中には小さな瓶やら容器やらがぎっちりと詰まっていて、
いわゆる“メイク用品”を詰め込んだバッグであり。
そこから選び出したスティック状のあれやこれやを、
細腰に巻き付けたカフェエプロンのポケットへと差し入れ。
よほどに上質の毛並みを集めたそれなのだろう、
ふんわり膨らんでたっぷりとした穂先の筆を、
慣れた様子で手に取った如月少年が付け足したのが、

 「いつまでも独り身なお人を見ると、
  お相手添わせな気が済まへんお人やそうで。
  しかも、四ッ谷のご隠居がまた、
  その奥方へは頭が上がれへんそうやとか。」

表向き“ご隠居”と呼ばれておいででも、
財界にまだまだ影響力のあるお人の園遊会へと、
勘兵衛が直々に潜入する必要が出来た。
証しの一族としてのお務めじゃあない、
仮の勤めである某商社の秘書室長として構えた ちょっとした策であり。
そんなおまけがついていようとは厄介なことよと苦笑したのが、
関西方面の“知己”である、丹羽良親殿で。

 『表の仕事で縁あるよって、俺が口利いたることになっとるが、
  独りもんやて紹介すると奥方に眸ぇつけられるよって、
  情報収集やら印象づけやらの仕事もしにくなるで?』

ちなみに俺は、如月に女装さして“連れです”て逢わしとおから大丈夫やけど。
そんな付け足しへ、勘兵衛がポンと手を打ったのへ、
誰もがあっさりと、
何を思いついた彼なのかを見通せたのは言うまでもなく。
(笑)

 そういう訳でと敢行されたのが、
 彼の自慢の古女房を“お出掛け仕様”に仕立てあげるぞ大作戦、
 だったワケであり。
 何だか芝居がかった悪ふざけではないかとの声も、
 一部、次男坊から出なくはなかったものの、

 『これまでにも、
  島田の仕事の一環の方で、
  仮のエスコートレディを勘兵衛様へつけた例がなかった訳やない。
  せやけど、そのどれもが本気でポーッてなってもうたん忘れたか。』

 『…っ☆』
 『え? え?』
 『良親様、このお二人には知らされてまへんえ、それ。』
 『あ? せやったかいな?』

もう逢うこともなかろと言われて半狂乱になった挙句、
自分が知ってる限りを探偵に暴露し倒して探させた女性も少なくはない。
まま、そういうこともあろうかと、
本当の素性に引っ掛かるよな何かを洩らすよな、
下手を打ったりはしなかったけれど。

 『いくら財界の大立者やその取り巻きが相手やいうても、
  何処の誰なんかを追跡出来へんようにするくらい容易いことや。』

何しろ身内も身内で、しかも実は男を連れてくのだからと、
悪戯っぽく笑った良親であり。
そんなこんなで決行されんとしている作戦への、
準備段階にある彼らだったりし。

 「お髪
(おぐし)は黒の直毛を大人しめのアップに。
  品のあるバレッタを、ワンポイントに飾ったらええよし。
  せやね、寡黙有能な女秘書風にしとこ。
  お化粧もナチュラルメイクで抑えての、
  お衣装はシックなスーツでええんちゃう?」

胸やお尻は、体型矯正用のボディスーツでどないでもなるし。
爪も、飾らへんまでも桜貝色のマニキュアは しとこな。
ハイヒールは…無理やろからパンプスで。
シークレットシューズの逆で、
ソールの中へ足埋める格好で背丈を低するタイプのん持って来たよって、
ヒールあんのに安定感はあるてゆう案配になるはずや、と。
やはりご持参いただいたらしいそれらを取りにか、
ひょいと立ち上がった如月くんの痩躯の陰から現れたのは、
コンタクト装着とお化粧の済んだ、文句なしの“若奥様”であったので。

 「〜〜〜。////////」
 「おおおおっ、なんちゅう別嬪やっ。」

原型が男性で、しかもさほどに妖的な気配は持たぬタイプだったのでと、
あくまでも淑やかで知的なタイプにとまとめてあるらしかったが。
それでも…さくらんぼ色の唇はほのかに濡れていて甘く、
伏し目がちな瞳や髪の色が黒くなったのが却って、
白い肌の絖絹のようなつややかさを際立たせ。
楚々とした雰囲気は、
男心にいけない嗜虐の欲を擡(もた)げさせかねない、
そんな方向での秘められた色香を、
ふんだんにたたえまくった傾向も、感じられぬではなかったものの。

 「〜〜〜。/////」
 「久蔵殿? どしました?」

如月くんが退いたあとへと、ちゃっかり移って来た次男坊。
少ぉしほど潤ませた赤い双眸でお母様を見上げると、

 「きれいだ。」
 「あ、えっと、ありがとうございます。/////」
 「でも…。」

  青いほうが、すき。
  ……そうですか。//////

勿論のこと、非難したわけじゃあない。
淡い色合いの金の綿毛をさわりと揺らし、小首を傾げての“好き”発言は、
なんとも無邪気で優しい響き。
だったからこそ、
お化粧にて美しく作ったおっ母様のお顔を、
含羞みの朱で飾っての、ますますと麗しく染め上げさせてしまい。

 「おおお。別な意味で、人の集まるとこへ連れてったら危なないか、あれ。」
 「……あれとは何だ、あれとは。」

大人のお二人が肘で相手をつつき合ってのこそこそと、
冷やかし野次馬と 黙れ無礼者合戦になっていたの、
衣装を詰めたキャリーバッグを引いて、
乗って来た車から戻って来た如月くんが目撃し、
やれやれとの苦笑交じりに肩をすくめたのは言うまでもなく。

  ―― 良親様、あんまり惣領様をいじりなはんな。
     ええやんか、今は任務とちゃう。俺ら助っ人やで。
     それでも…久蔵殿への教育によろしない。

日頃の普段は“家族”でも、
いざという時には揺るがせに出来ぬ上下間系が歴然と現れる間柄。
それを蔑
(ないがし)ろにしちゃう子になったらどうしますかと、
そんな久蔵とさして年の変わらぬ彼が、真摯なお顔で進言するのも妙なもので。


  平和なんだか物騒なんだか、
  春寒もどこへやらと にぎやかな。
  相変わらずな島田さんチのリビングだったようでございます。





   〜Fine〜  10.03.28.


  *エイプリルフールに何かUPしようと思って
   書き始めたネタでしたが、
   “四月馬鹿”というのは、
   罪のないウソやホラを披露する日なのであって、
   決して お馬鹿さ加減をお披露目する日じゃあないと
   途中で何とか気がつきまして。
(笑)
   冒頭の微妙な掛け合いだけ思いついたので、
   背景といいますか、
   何でこんな お馬鹿な騒ぎになっているのかの理屈づけ、
   後半を考える方が うんとずっと大変でした。
(大笑)


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